ペットフード安全法(正式名称:愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律)は、日本におけるペットフードの安全性を確保し、ペットの健康を守るために制定された法律です。この法律は、ペットフードの製造、輸入、販売に関する基準を定め、適正な管理と監視を行うことで、ペットフードの品質と安全性を保証することを目的としています。
ペットフード安全法は、2009年(平成21年)6月に「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」として施行された比較的新しい法律で、対象となるのは犬及び猫用のペットフードに限定されています。
そこで今回は、愛犬家の皆さまなら日ごろから気になっているペットフードに関係する法律について、少しお話をさせていただこうと思います。
愛犬家なら知っておきたい「ペットフード安全法」
ペットフード安全法の概要(環境省ホームページより)
- 平成21年12月より、農林水産大臣及び環境大臣が定めた成分規格及び製造方法に合わない犬及び猫用ペットフードの製造、輸入又は販売は禁止されます(ただし平成21年12月1日以前に製造、輸入又は販売したものを除く)。
- 平成22年12月より、販売される犬及び猫用ペットフードには下記の表示が義務付けられます(ただし平成22年12月1日以前に製造、輸入又は販売したものを除く)。
・名称 ・原材料名 ・賞味期限 ・製造業者等の名称及び住所 ・原産国名 - 平成21年6月からペットフードの輸入業者又は製造業者は、届出が義務付けられます。
- 平成21年6月からペットフードの輸入業者、製造業者又は販売業者(小売は除く)は、輸入・製造・販売の記録を残すために、帳簿の備えつけが義務付けられます。
- 有害な物質などが混入したペットフードが流通するなどした場合には、農林水産大臣及び環境大臣は、製造業者、輸入業者又は販売業者に対し、廃棄、回収などの必要な措置をとるよう命ずることができます。
- 農林水産大臣又は環境大臣は、問題が起きた場合などにペットフードの製造業者等から必要な報告の徴収又は立入検査等を行うことができます。また、(独)農林水産消費安全技術センターに立入検査等を行わせることができます。
ペットフード安全法の主な内容
1.定義
- ペットフード : 犬や猫などのペットに対して給餌される食品を指します。
- 製造者・輸入者・販売者 : ペットフードの製造、輸入、販売に関わるすべての業者が対象です。
2.製造・輸入・販売の基準
- 安全性基準の設定 : ペットフードの製造、輸入、販売に関する安全性基準が設定されており、これに従う必要があります。
- 表示の義務化 : ペットフードの成分、使用方法、保存方法などについての表示が義務付けられています。
3.品質管理
- 製造・輸入業者の登録ペットフードの製造や輸入を行う業者は、事前に登録が必要です。
- 品質管理体制の整備: 業者は、ペットフードの品質管理体制を整備し、安全な製品の供給を確保する義務があります。
4.監視と検査
- 監視体制の強化 : 行政機関は、ペットフードの製造、輸入、販売に関する監視を強化し、違反行為を防止します。
- 検査の実施 : 必要に応じて、ペットフードのサンプル検査を実施し、安全性を確認します。
5.違反に対する罰則
- 罰則の設定 : 安全性基準や表示義務に違反した場合、罰則が科されます。これには、罰金や営業停止などの措置が含まれます。
6.リコール制度
- リコールの義務 : 安全性に問題があるペットフードが市場に出回った場合、製造者や販売者は速やかにリコールを実施する義務があります。
ペットフード安全法の具体的な規定
1.成分規制
有害な成分や不適切な成分が含まれないようにするための成分規制が設定されています。
2.表示規制
ペットフードのパッケージには、原材料、成分、賞味期限、製造者情報などの表示が義務付けられています。
3.輸入規制
輸入されるペットフードについても国内基準に適合することが求められます。
ペットフード安全法の実施と監督
1.環境省と農林水産省
ペットフード安全法の実施と監督は、主に環境省と農林水産省が担当しています。これらの省庁は、法の遵守状況を監視し、必要な措置を講じます。
2.通報システム
ペットフードに関する問題が発生した場合、消費者は通報システムを通じて報告することができます。これにより、迅速な対応が可能となります。
ペットフード安全法が施行される以前の状況
ペットフード安全法が施行される前、日本にはペットフードの安全性に関する統一的な法律が存在していませんでした。そのため、ペットフードの製造や販売に関する規制や基準が十分に整備されていない状況でした。このような背景から、以下のようないくつかの問題が指摘されていました。
1.品質管理の不備
一部のペットフードは、品質管理が不十分である場合がありました。これにより、ペットフードの安全性が確保されていない製品が市場に流通するリスクがありました。
2.成分表示の不明確さ
ペットフードの成分表示が不十分だったため、消費者が購入前にペットフードの内容を十分に把握できないケースがありました。これにより、ペットに適さない成分が含まれる製品を購入してしまう可能性がありました。
3.輸入品の問題
輸入されたペットフードに関しても、品質や安全性に関する規制が明確ではなかったため、消費者が安心して購入できない状況がありました。
4.事故や健康被害
一部のペットフードで品質の問題が原因となり、ペットに健康被害が生じた事例も報告されていました。これにより、消費者の間でペットフードに対する不信感が広がることもありました。
これらの状況を改善し、ペットの健康と安全を守るために、2009年に「ペットフード安全法」が施行され、ペットフードの製造、輸入、販売に関する基準が明確に定められるようになりました。
ペットフード安全法の課題と今後の展望
1. 消費者意識の向上
消費者に対する教育と啓発活動を通じて、ペットフードの安全性に関する意識を高めることが重要です。
2.規制の強化
新たな科学的知見や社会的要請に応じて、規制を適時見直し、強化することが求められます。
3.国際協力
グローバル化が進む中で、国際的な協力を強化し、輸入ペットフードの安全性確保に努めることが必要です。
ペットフード安全法は、ペットの健康を守るための重要な法律であり、これに基づく適切な管理と監視が求められます。消費者としても、ペットフードの選び方や保管方法に注意し、安全で健康的な製品を提供することが大切です。
日本のペットフードに関する規制は遅れているのか?
ペットフード安全法は遅れてるの?
日本のペットフード安全法は、2009年に施行され、ペットフードの安全性を確保するための規制を強化しました。しかし、他国と比較すると、制定の時期や規制の厳格さに違いがあります。
比較の観点
1.法律が制定された時期
● アメリカ
アメリカでは、2007年に大規模なペットフードリコール事件が発生したことを契機に、2008年に「食品安全近代化法(FSMA)」が成立しました。この法律にはペットフードに関する規制も含まれています。
● 欧州連合(EU)
EUでは、ペットフードの安全性に関する規制が比較的早期に整備されており、2002年には「動物の栄養及び健康に関する規則」が施行されました。
2.規制の厳格さ
● 成分表示と品質管理
日本ではペットフードの成分表示が義務付けられていますが、アメリカやEUに比べて詳細な表示要件が遅れて導入された面があります。また、これらの地域では品質管理や製造工程に対する規制がより詳細であることが多いです。
● 安全基準の設定
他国と同様に、日本でもペットフードに含まれる有害物質の基準が設けられていますが、国際的な基準との整合性や詳細なガイドラインの整備が進んでいる国々と比べると、やや遅れていると指摘されることがあります。
諸外国との比較
● 下記は、米国、カナダ、オーストラリア、EU、日本を比較した表になります。
米国 | カナダ | オーストラリア | EU | 日本 | |
法律名称 | 食品安全近代化法(FSMA) | カナダ食品検査庁(CFIA)の規制 | オーストラリア・ニュージーランド食品基準(Food Standards Australia New Zealand) | 動物の栄養及び健康に関する規則(Regulation (EC) No 1831/2003) | 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法) |
概要 | 2011年に成立したFSMAは、人間と動物の食品安全を包括的に規制する法律です。ペットフードに関しては、成分表示、品質管理、製造工程の衛生基準などが規定されています。 | CFIAはペットフードに関する規制を設けており、成分表示、輸入規制、品質管理に関する基準を定めています。また、ペットフードに使用される成分が安全であることを確認するための基準も設定されています。 | オーストラリアとニュージーランドでは共通の食品基準があり、ペットフードに対する規制も含まれています。成分表示、衛生管理、品質管理の基準が規定されており、特に輸入製品に対する規制が厳格です。 | ペットフードに使用される成分、添加物の使用基準、ラベル表示、衛生管理などを詳細に規定しています。特に、有害物質の含有量や原産地表示について厳格な規制が設けられています。 | 2009年に施行された法律で、ペットフードの成分表示、品質管理、製造および輸入に関する基準が規定されています。特に、原材料の安全性や有害物質の基準について詳細に定めています。 |
法規制 (注:動物検疫上の規制や、動物用医薬品としての規制を除いて整理) | ・連邦政府と州政の2段階による法規制。 ・連邦政府は、連邦食品・医薬品・化粧品法」に基づき、安全確保の観点から、ペットフードを含む飼料全般について規制。 ・州政府は米国飼料検査官協会が作成したモデル法令を基に、州法により市販されるペットフードの適正な流通を確保するために規制。 | ・ペットフードの安全確保について、法規制はない。 ・ペットフードを含む容器入り製品全般について、「消費者容器・表示 法」に基づき、正味量、一般名、製造業者名等を英語とフランス語の両方で表示することを義務化。 | ・ペットフードの安全確保について、連邦政府による法規制はない。 | ・人の生命・健康の保護、消費者の利益の保護を目的とし、動物の健康と福祉を考慮して、ペットフードを含む飼料全般についてEU共通の規則 (Regulation)及び指令 (Directive)等に基づき法規制。 | ・ペットフードの安全確保について、法規制はない。 ・ペットフード公正取引協議会が、「不当景品類及び不当表示防止法」に基づき公正競争規約を定め、適正表示を推進。 |
法規制以外の主な枠組み | ・行政の主導で、「ペットフードの表示と広告に関するガイドライン」を作成。 ・PFAC(カナダペットフード協会)がペットフードの原料、栄養、表示等の自主基準を設定。 | ・行政の主導で、「ペットミートの衛生的な生産のための基準」を作成。 ・FIAA(オーストラリアペットフード工業会)がペットフードの原料、栄 養、表示等の自主基準を設定。 | ・FEDIAF(欧州ペットフード工業会連合)が「安全なペットフードの製造に関する実施基準」等を策定。 | ・ペットフード工業会が「安全なペットフードの製造に関する実施基準」を策定。 | |
監督機関 | アメリカ食品医薬品局(FDA)が監督し、定期的な検査と監視を行います。 | CFIAが監督と実施を担当しています。 | 食品基準局(FSANZ)が規制を実施し、監督しています。 | 欧州食品安全機関(EFSA)が各国の監督機関と連携して監視しています。 | 農林水産省が監督し、定期的な検査を行っています。 |
まとめ
この法律が制定されたことにより、ペット(犬と猫)の健康に悪影響を及ぼすペットフードの製造、輸入又は販売は禁止され、消費者に対して適切かつ十分な情報を提供するために製造業者名や賞味期限などの表示が義務付けられました。また、国は国内に流通するペットフードを監視し、問題が起きた時はその廃棄、回収を事業者に対して命令することがでるようになりました。
日本のペットフード安全法は、他国の規制と比較すると後発であるため、ある程度の遅れがあったことは否めません。しかし、近年では国際基準に沿った規制の強化が進められており、ペットフードの安全性に対する意識も高まっています。また、日本国内の市場特性や文化的背景を考慮しつつ、独自の基準や規制も導入されているため、一概に遅れているとは言えない側面もあります。
ペットフードに関する世界的な法規制の流れを知ることによって、愛犬により安全でより安心な食事を与えることのできる環境を整えていく役割、それが私たちにあるように思います。