動物愛護管理法(正式名称:動物の愛護及び管理に関する法律)は、日本における動物福祉の基本法であり、動物の生命と健康を尊重し、動物虐待の防止、適正な飼育や管理の促進を目的としています。この法律は、動物の取り扱いに関する基本的な枠組みを提供し、動物と人間が共生する社会の実現を目指しています。
動物愛護管理法は、1973年(昭和48年)9月に制定されましたが、時代の変化や社会の要請に応じて改正されて現在に至っております。今回は、動物愛護管理法における基本的な考え方と改正内容についてお話をさせていただきます。
愛犬家なら知っておきたい「動物愛護管理法」
動物愛護管理法の概要(環境省ホームページより)
(1)基本原則
すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うよう定めています。
(2)動物愛護週間
広く国民の間に動物の愛護と適正な飼養についての関心と理解を深めるため、毎年9月20日から26日までを動物愛護週間とし、国及び地方公共団体ではその趣旨にふさわしい行事を実施しています。
(3)動物の飼い主等の責任
動物の飼い主は、動物の種類や習性等に応じて、動物の健康と安全を確保するように努め、動物が人の生命等に害を加えたり、迷惑を及ぼすことのないように努めなければなりません。また、みだりに繁殖することを防止するために不妊去勢手術等を行うこと、動物による感染症について正しい知識を持ち感染症の予防のために必要な注意を払うこと、動物が自分の所有であることを明らかにするための措置を講ずること等に努めなければなりません。なお、動物の所有情報を明らかにするためにマイクロチップなどによる所有明示を推進しています。なお、令和元年6月に改正された動物愛護管理法において、販売される犬及び猫に対し、マイクロチップの装着、所有者情報の登録等が義務化されました。この規定の施行は令和4年6月までとされています。
(4)動物の飼養及び保管等に関するガイドライン
家庭動物、展示動物、畜産動物、実験動物のそれぞれについて、動物の健康と安全を確保するとともに動物による人への危害や迷惑を防止するための飼養及び保管等に関する基準を定めています。また、動物を科学的利用に供する場合は、いわゆる「3Rの原則(苦痛の軽減等)」等に配慮するように努めなければなりません。また、実験動物を利用する際には苦痛の軽減、動物に代わり得るものの利用、数の少数化などの基準を定めています。
(5)動物取扱業者の規制
第一種動物取扱業者(動物の販売、保管、貸出、訓練、展示、競りあっせん、譲受飼養を営利目的で業として行う者)は、動物の適正な取扱いを確保するための基準等を満たしたうえで、都道府県知事又は政令指定都市の長の登録を受けなければなりません。登録を受けた動物取扱業者には、動物取扱責任者の選任及び都道府県知事等が行う研修会の受講が義務づけられています。また、都道府県知事又は政令指定都市の長は、施設や動物の取り扱いについて問題がある場合、改善するよう勧告や命令を行うことができ、必要がある場合には立入検査をすることができます。悪質な業者は、登録を拒否されたり、登録の取消や業務の停止命令を受けることがあります。
また、飼養施設を設置して営利を目的とせず一定数以上の動物の取扱いを行う場合については、第二種動物取扱業者(動物の譲渡し、保管、貸出、訓練、展示を非営利で業として行う者)として、都道府県知事や政令指定都市の長に届け出なければなりません。
(6)周辺の生活環境の保全
多数に限らず1頭の動物を飼うことによっても、不適正な飼養により、周辺の生活環境が損なわれている事態が生じていると認められる場合、都道府県知事又は政令指定都市の長は、その事態を生じさせている者(飼い主等)に対して必要な措置をとるように指導、助言、勧告や命令等を行うことができます。
(7)危険な動物の飼養規制
国が定めた危険な動物とその交雑種は令和2年6月1日から愛玩の目的での飼養ができなくなりましたが、動物園や試験研究等で飼う場合は、法律に基づき都道府県知事又は政令指定都市の長の許可を受ける必要があり、動物が脱出できない構造の飼養施設を設けるなどして、事故防止を図らなければなりません。また、飼うにあたってはマイクロチップなどによる個体識別措置が義務づけられています。
(8)犬及び猫の引取り等
都道府県、政令指定都市又は中核市は、犬及び猫の引取りを行うとともに、道路、公園、広場、その他の公共の場所において発見された負傷動物等の収容を行います。
(9)基本指針と推進計画
動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するため、環境大臣が基本指針を、都道府県は推進計画を定めます。
(10)動物愛護推進員と協議会
都道府県知事等は動物の愛護と適正な飼養を推進するため、動物愛護推進員を委嘱するとともに、動物愛護推進員の活動を支援するため協議会を組織することができます。
(11)罰則
愛護動物をみだりに殺し又は傷つけた場合は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処されます。また、愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であって疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であって自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行った者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処され、遺棄した者も、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。
動物愛護管理法を簡単に説明
動物愛護管理法の基本的な考え方は、動物の生命と健康を尊重し、動物が適切な環境で生活できるようにすることを目的としています。この法律は、動物の福祉と適正な管理を確保するための基盤となっている法律です。
● 動物の生命と健康の尊重
動物愛護管理法は、すべての動物が尊重され、その生命と健康が守られるべきだとしています。動物を不必要に苦しめることなく、適切なケアを提供することが求められます。
● 適正飼育の促進
動物の飼育者には、動物が健康で快適に過ごせるよう、適切な飼育環境を提供する義務があります。これには、適切な食事、運動、医療ケアの提供が含まれます。
● 動物虐待の防止
動物に対する虐待行為は禁止されており、これには身体的虐待だけでなく、適切な飼育を怠ることも含まれます。違反者には罰則が科されます。
● 動物取扱業者の規制
動物を扱う業者(ペットショップ、ブリーダーなど)は、登録が必要であり、適正な飼育環境と取り扱いを行うための基準を遵守することが求められます。
● 生命の尊厳と終生飼養
動物はその生涯を通じて責任を持って飼養されるべきだという考え方が強調されています。飼い主は、動物が最後まで適切にケアされるよう努める責任があります。
● 環境および福祉の向上
動物の飼育環境と福祉の向上が重要視されており、動物がストレスを受けないような環境作りや、精神的な健康も考慮されています。
● 教育および啓発
動物愛護に関する教育や啓発活動を通じて、社会全体の意識を高めることが目指されています。これには、学校教育や地域での活動が含まれます。
● 共生社会の実現
人間と動物が共生する社会を目指し、動物の適正な取り扱いを促進することが法律の根底にあります。動物と人間の関係性を見直し、互いに利益を享受できるような社会の構築が目指されています。
これらの基本的な考え方を通じて、動物愛護管理法は、動物の福祉を向上させ、動物と人間が共生する社会の実現を目指しています。
動物愛護管理法の主な内容
1.飼い主の義務
- 動物の健康と安全を確保するために、適切な食事、住環境、医療を提供する義務があります。
- 動物の適正な管理としつけを行い、公共の場でのルールを守ることが求められます。
2.動物取扱業者の登録制度
- ペットショップ、繁殖業者、動物保護施設などの動物取扱業者は、都道府県知事に登録しなければなりません。
- 登録には、適切な施設と設備、従業員の教育訓練、適正な管理体制が求められます。
3.動物虐待の防止
- 動物虐待行為(暴行、食事の提供をしない、適切な飼育環境を提供しない等)に対して罰則を設けています。
- 動物を適切な方法で殺処分することを求め、不必要な苦痛を与えることを禁止します。
4.動物保護施設の運営
- 都道府県や市町村は、動物愛護センターなどの動物保護施設を設置し、動物の保護、収容、譲渡などを行います。
- 保護された動物の新しい飼い主を見つけるための里親探しを支援します。
5.教育と啓発活動
- 学校教育や地域社会での啓発活動を通じて、動物愛護の重要性を広めることが推進されています。
- 動物愛護週間などのイベントを通じて、社会全体での意識向上を図ります。
6.法律の施行と監督
- 環境省の役割 : 環境省は、動物愛護管理法の施行を監督し、全国的な動物福祉の基準を設定しています。
- 地方自治体の役割 : 各地方自治体は、動物愛護管理法に基づいて、地域での動物保護活動や適正な飼育環境の確保を実施します。
- 動物愛護センター : 地方自治体が設置する動物愛護センターは、動物の保護、収容、里親探し、啓発活動などを行います。
動物愛護管理法は、動物福祉の向上と適正な管理を目指し、動物と人間が共生する社会の実現を支える重要な法律です。動物を飼う際には、この法律の趣旨を理解し、適正な飼育と管理を行うことが求められます。
動物愛護管理法の改正点
動物愛護管理法は、時代の変化や社会の要請に応じて改正されてきました。主な改正内容を以下のとおりです。
2012年(平成24年)の改正
動物取扱業の規制強化
- ペットショップなどの動物取扱業者に対する規制が強化され、深夜営業の制限や、動物の適正な飼育環境の確保が義務付けられました。
- 動物取扱責任者の設置が義務化されました。
動物虐待の罰則強化
- 動物虐待に対する罰則が強化され、懲役刑や罰金が引き上げられました。
動物の譲渡に関する規定
- 動物の引き取り手を見つけるための努力が義務付けられ、自治体が引き取る前に譲渡先を探すことが求められました。
2019年(令和元年)の改正
マイクロチップの義務化
- 犬や猫に対するマイクロチップの装着が義務化され、所有者情報の登録が必要となりました。
繁殖業者の規制強化
- 繁殖業者に対する規制が強化され、繁殖可能な年齢や回数に制限が設けられました。
動物虐待の罰則強化
- 動物虐待に対する罰則がさらに強化され、より厳しい懲役刑や罰金が導入されました。
動物の適正飼育の推進
- 飼い主に対して、動物の適正な飼育方法を普及させるための教育や啓発活動が強化されました。
★ 厚生労働省ホームページより「令和元年に行われた法改正の内容」より以下の概要が刑事されていますので、ご紹介いたします。
飼い主の方へ ☞ 守ってほしい5か条
1.動物の習性等を正しく理解し、最後まで責任をもって飼いましょう
飼い始める前から正しい飼い方などの知識を持ち、飼い始めたら、動物の種類に応じた適切な飼い方をして健康・安全に気を配り、最後まで責任をもって飼いましょう。
2.人に危害を加えたり、近隣に迷惑をかけることのないようにしましょう
糞尿や毛、羽毛などで近隣の生活環境を悪化させたり、公共の場所を汚さないようにしましょう。また、動物の種類に応じてしつけや訓練をして、人に危害を加えたり、鳴き声などで近隣に迷惑をかけることのないようにしましょう。
3.むやみに繁殖させないようにしましょう
動物にかけられる手間、時間、空間には限りがあります。きちんと管理できる数を超えないようにしましょう。また、生まれる命に責任が持てないのであれば、不妊去勢手術などの繁殖制限措置を行いましょう。
4.動物による感染症の知識を持ちましょう
動物と人の双方に感染する病気(人と動物の共通感染症)について、正しい知識を持ち、自分や他の人への感染を防ぎましょう。
5.盗難や迷子を防ぐため、所有者を明らかにしましょう
飼っている動物が自分のものであることを示す、マイクロチップ、名札、脚環などの標識をつけましょう。
まとめ
動物愛護管理法は、動物が健康で安全な生活を送るための基本的な法律です。また、人間と動物が共生する社会を目指すための重要な法律でもあります。この法律に基づき、動物を適正に管理し、動物の福祉を向上させることが私たち人間の使命だと考考えています。
日本の「動物愛護」に関係する法律は、欧米諸国の動物愛護先進国からは、まだまだ遅れを取っている状況ではありますが、愛犬家の皆様におかれましては、日本における現状を理解していただき、欧米との格差を埋めていただけるよう努力していただけることだと理解しております。