以前、「ペット先進国である欧米と日本では、犬の生活環境にどんな違いがあるの?」で紹介したように、アメリカはペット先進国と言われている国の一つです。日本の愛犬家を自称している者にとっては、気になる問題でもあります。
そこで今回は、ペット先進国と言われている各国の諸事情についてメスを入れたいと思います。まず、一発目として一番気になる国であるアメリカ合衆国について考えたいと思います。
アメリカ合衆国における犬猫の保護活動の現状
アメリカ合衆国における犬や猫に対する保護活動は、州単位でたくさんの組織や個人の努力により広い範囲で行われています。以下はその現状を項目別にまとめて見ました。
アニマルシェルター
アニマルシェルターは、日本で言うところの犬や猫の保護施設のことで、アメリカでは、州ごとに動物保護の法律によって運営されており、捨てられた犬や迷子の犬を受け入れを行っております。資金や施設が限られているため、州によっては犬や猫の収容が過剰になるという問題を抱えていたりします。また、非営利団体である ASPCA(American Society for the Prevention of Cruelty to Animals : アメリカ動物虐待防止協会)やHumane Society of the United States(全国規模の動物関連の残虐行為に反対するアメリカの非営利団体)がアニマルシェルターの活動しています。
ノーキル運動
ノーキル運動とは、保護した動物が健全であると判断される場合、決して殺処分せず、新しい家庭が見つかるまで面倒を見るという運動ことで、アメリカ全土でこの運動が広がり、多くのアニマルシェルターがノーキル(殺処分ゼロ)を目指して活動しています。このノーキル運動の成功事例として、カリフォルニア州やテキサス州の一部地域ではノーキルシェルターの割合が高くなっています。
譲渡活動と教育
地域のペットショップやイベント会場で行われる譲渡イベントが定期的に開催されており、また、学校やコミュニティセンターでの教育プログラムを通じて、動物虐待防止や適切なペットケアについての教育や啓発活動が行われています。
法規制と行政支援
アメリカのにおける法規制の一つに「動物虐待防止法」があります。この法律は、各州が独自に動物保護に関する法律を制定しており、ほとんどの州で、動物虐待やネグレクトに対する罰則が設けられています。また、動物虐待の罰則が強化されており、初犯でも厳しい罰が科せられるケースが増えています。行政支援では、政府主導の下で、地方自治体や州政府からの助成金や補助金の提供によりシェルターや保護団体の活動を支えを行っています。
アメリカ合衆国における犬猫の保護活動の問題点
アメリカ合衆国における保護犬活動には多くの成功事例もありますが、以下のような問題点も多く抱えております。
過剰収容と殺処分による安楽死
前項でも述べたように、多くのシェルターで受け入れ可能な数以上の犬を抱えているという実態があります。特に公営シェルターで過剰収容が顕著で、収容スペースが限られているため、満杯になることが多々発生しております。また、 過剰収容の結果、健康な犬であっても安楽死が選択されることがあります。特に収容数の多い地域では、この問題が深刻化しているのが実態です。
資金と施設の不足
多くの保護団体やシェルターでは寄付や助成金により賄われており、十分な資金を確保するのが困難なことから、必要な医療や適切なケアを施すことが困難な場合があります。また、人手不足や物資の不足も大きな問題になっており、ボランティアやスタッフの数も不足しているため、適切なケアが行き届かないことが多々発生しているということも問題化しております。
教育と意識の欠如
アメリカの一部の地域では、ペットの適切なケアや避妊去勢の重要性についての倫理的な認識が不足しており、不要な繁殖や捨てられる犬の数が増加している地域もあるのが実態です。また、保護団体やシェルターが行う教育活動が限られており、地域全体の意識向上が十分に進んでいないケースが存在します。
法規制のばらつきと執行の不備
アメリカでは、州ごとに動物保護に関する法律が異なるため、法規制のばらつきから一部の地域では、保護犬の福祉が十分に守られていない場合があります。また、動物虐待やネグレクトに対する法律があっても、執行の不備による適切に執行されないケースも発生し、問題のある飼い主に対する対応が遅れることがあります。
特定犬種への偏見
ピットブルなど特定の犬種に対する偏見が根強く、これらの犬が新しい家を見つけるのが難しい場合があります。そのため、特定の犬種がシェルターに長期間残ることが多いことも問題となっております。
保護犬の健康管理
多くのシェルターが限られた資源で運営されているため、必要な医療や健康を維持するためのケアを全ての犬に提供することが難しい場合があります。特に健康問題を抱える犬に対するケアが十分でないことがあります。
これらの問題点に対処するためには、さらなる資金調達、ボランティアの増加、法的規制の強化、地域社会全体の教育と意識向上が必要です。アメリカ全土での協力と努力が求められています。
アメリカ合衆国における犬猫の保護活動の未来
アメリカにおける保護活動では、以下のような課題を解決するための挑戦を行っております。これは未来に対する展望と期待される進展でもあります。
ノーキル運動の拡大
多くのシェルターではノーキル(殺処分ゼロ)を目指し、収容動物の健康と幸福を優先する方針を取っており、この運動は今後さらに拡大し、アメリカ全土での標準となることが期待されています。また、成功しているノーキルシェルターの運営方法やプログラムが他のシェルターに広まり、全体のレベルが向上することが期待されております。
技術の進歩
ペットの譲渡や保護活動を支援するためのオンラインプラットフォームやアプリが増え、効率的な譲渡活動が可能になります。これにより、より多くの犬が新しい家を見つけやすくなります。また、マイクロチップの普及と全国的なデータベースの統合により、迷子の犬が迅速に元の飼い主の元に戻ることが可能になってきております。
教育と意識向上
動物福祉に関する教育プログラムが学校で導入され、次世代の子どもたちが早期に動物保護の重要性を理解するようになってきております。また、コミュニティイベントやメディアキャンペーンを通じて、ペットの適切なケアや避妊去勢の重要性についての意識向上が図られてきております。
政策と法規制の強化
動物保護に関する全国的な法律が制定され、各州の規制を統一することで、動物の福祉が一貫して保護されるようになりつつあります。そして、動物虐待やネグレクトに対する法的措置が強化され、違反者に対する厳しい罰則が適用されるようになってきております。
企業とコミュニティの連携
ペット関連企業やその他の企業が動物保護活動に対する支援を強化し、資金やリソースを提供することで、保護団体の活動がより安定して行われるようになってきております。また、地域のボランティアや地元企業との連携が進み、コミュニティ全体で保護活動を支える風潮が醸成されてきております。
国際的な連携
アメリカの保護団体が国際的な動物保護団体と連携し、世界中の効率的な運用方法を共有することにより、保護活動の質が向上し、他国との協力により、保護犬の国際的な譲渡が促進され、適切な家庭を見つける機会を増やしてきています。
まとめ
アメリカは国土も広く、また、他民族国家でもあります。そのため、州によってのばらつきが見られ、ペット先進国と言われている国の中では遅れているように思われがちですが、国全体としての制度や法律はトップクラスに入ります。人口が多いことで、制度や法律の徹底が大きなネックと言わざるを得ません。
アメリカにおける保護犬活動の未来は、技術の進歩、教育と意識の向上、法規制の強化、企業とコミュニティの連携、国際的な協力など、さまざまな要素が絡み合って発展していくことが期待されています。保護犬の福祉がさらに向上し、より多くの犬が幸せな生活を送ることができると期待しております。