イギリスもペット先進国と言われている国の一つです。1822年の「畜獣の虐待および不当な取り扱いを防止する法律」により、動物保護の規則を制定した世界で初めての国で、動物愛護の法律はイギリスから始まったと言っても過言ではないでしょう。イギリスには、動物の飼育や利用、販売に関する法令がなんと70以上も存在します。それほどイギリスは、動物愛護先進国と言われる理由なのです。
そこで今回は、ペット先進国であるイギリスにおける保護活動、とりわけ犬と猫に関しての保護活動の現状と問題点、ならびに保護活動の未来について考えて見たいと思います。
イギリスにおける犬猫の保護活動の現状
イギリスにおける犬や猫の保護活動は非常に活発で、多くの団体や個人が動物の福祉向上を目指しています。以下に、イギリスにおける犬猫の保護活動の現状についてを列挙しました。
保護団体と活動
イギリスには、以下のような動物保護団体が活動しています。
1.RSPCA (Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)
(設立) 1824年
RSPCAは、イギリスで最も歴史があり、最大の動物福祉団体です。動物虐待の防止を目的とし、動物の保護、救助、治療を行っています。また、動物福祉に関する法律の制定と執行に重要な役割を果たしており、違法な行為に対しては法的措置を取ることもあります。
(活動内容)
- 動物虐待やネグレクトの調査と対応
- 保護された動物のリハビリテーションと再ホーム
- 教育プログラムを通じた動物福祉の普及
- 動物福祉法の強化とロビー活動
2.Dogs Trust
(設立) 1891年
Dogs Trustは、犬の保護と福祉に特化した団体で、イギリス最大の犬保護団体です。犬が捨てられたり、不適切に飼育されたりしないよう支援し、里親探しを行っています。
(活動内容)
- 年間約15,000匹の犬を保護
- 全国に20以上の保護施設を運営
- 飼い主への教育と支援
- 犬の行動やトレーニングに関する研究
3.Cats Protection
(設立) 1927年
Cats Protectionは、猫の保護と福祉に特化した団体で、イギリスで最大の猫保護団体です。野良猫の問題解決、里親探し、猫の不妊手術の普及に力を入れています。
(活動内容)
- 年間約200,000匹の猫を保護・再ホーム
- TNR(捕獲、不妊手術、リリース)プログラムの実施
- 猫の健康と福祉に関する啓発活動
- 猫に関する法律の強化とロビー活動
4.Blue Cross
(設立) 1897年
Blue Crossは、病気やケガを負った動物の治療とリハビリテーションに重点を置いた団体です。彼らは、動物病院、動物保護施設、ペット里親プログラムなどを運営しており、経済的に困難な状況にある飼い主への支援も行っています。
(活動内容)
- 動物病院の運営と低所得者向けの治療サービス
- 動物保護施設の運営と再ホーム
- ペットグリーフサポートサービス(ペットを失った人への支援)
5.Battersea Dogs & Cats Home
(設立) 1860年
Battersea Dogs & Cats Homeは、イギリスで最も古い動物保護団体の一つで、捨てられた犬や猫の保護と再ホームに力を入れています。設立以来、300万匹以上の動物を救済してきました。
(活動内容)
- 犬と猫の保護、リハビリ、里親探し
- 保護された動物に対する行動療法
- 公共教育キャンペーンを通じた動物福祉の普及
6.PDSA (People’s Dispensary for Sick Animals)
(設立) 1917年
PDSAは、低所得者向けにペットの医療サービスを提供する団体で、イギリス全土に無料または低価格で治療を行う動物病院を運営しています。年間200万件以上の治療を行っており、動物の健康と福祉に大きく貢献しています。
(活動内容)
- 無料または低価格での動物医療サービスの提供
- ペットの健康に関する教育と啓発活動
- 動物福祉に関する研究とロビー活動
イギリスの保護団体は、それぞれが特定の動物種や活動領域に特化しつつ、動物の福祉向上に大きく貢献しています。これらの団体は、動物の保護、医療、教育、法律の強化など、さまざまな面で活動を展開しており、イギリスの動物保護活動の中心的な役割を果たしています。未来に向けて、これらの団体はさらなる支援と協力を得て、動物たちの福祉をさらに向上させることが期待されます。
保護動物の現状
イギリスでは、ペットの飼い主の意識が高まっている一方で、捨てられる犬猫の数は依然として多く、保護施設は常に多くの動物でいっぱいです。特に、コロナ禍でペットを迎え入れた家庭が増えた反面、パンデミック後に飼育放棄が増加したという問題もあります。
法律と規制
イギリスでは動物福祉に関する法律が厳しく、動物虐待やネグレクト(放置)は刑事罰の対象となります。また、ペットショップでの動物販売や繁殖に関する規制も強化されており、適切な飼育環境が求められています。
教育と啓発
保護団体は、動物を迎え入れる前に十分な責任感を持つように促すための教育や啓発活動を行っています。これには、動物の適切な世話や、健康管理の重要性についての情報提供が含まれます。
イギリスにおける犬猫の保護活動の問題点
イギリスでは犬猫の保護活動は進んでいるものの、いくつかの問題点や課題が存在します。以下は、主な問題点になります。
保護施設の過密状態
多くの保護施設が過密状態にあり、収容可能な動物の数を超えてしまうことがよくあります。これにより、十分なケアやスペースを確保するのが難しくなり、動物たちのストレスや健康問題が増加するリスクがあります。
保護団体などの資金不足
多くの保護団体や施設は寄付や慈善活動に依存しており、十分な資金が確保できないことがあります。これにより、施設の維持や動物の医療ケアに支障をきたす場合があります。特に、医療費や飼育費用が高騰する中で、資金不足は深刻な問題となっています。
難航する里親探し
動物たちに適切な里親を見つけることが難しいことがあります。特に、成犬や成猫、または健康上の問題を抱えた動物は、新しい家を見つけるのが難しく、長期間施設に滞在することが多いです。また、パンデミック中に増えたペットが再び保護施設に戻されるケースも増えており、さらに里親探しが困難になっています。
法律の執行と不十分な規制
イギリスには動物福祉に関する法律が存在しますが、地域によってはこれらの法律の執行が十分ではない場合があります。また、ペットの繁殖や販売に関する規制が強化されているものの、違法な繁殖業者や悪質なペットショップが存在し、問題を引き起こすことがあります。
不足する教育と国民意識
一般市民やペットの飼い主に対する教育がまだ不十分であり、動物を適切に世話する方法や動物福祉の重要性に関する意識が低い場合があります。これにより、動物虐待やネグレクト(放置)が続くリスクがあります。また、一部の人々は、動物保護施設からの引き取りを考えず、ペットショップでの購入を優先する傾向があります。
繁殖管理への課題
犬や猫の繁殖管理が十分でないため、望まれない子犬や子猫が生まれ、それが保護施設に引き取られる原因となっています。特に、野良猫の増加は深刻な問題であり、TNR(捕獲、不妊手術、リリース)プログラムが必要とされていますが、これも資金や人手不足で十分に行えないことがあります。
コミュニティの協力不足
動物保護活動には、地域コミュニティやボランティアの協力が不可欠ですが、全ての地域で十分な協力が得られているわけではありません。特に、都市部以外の地方では保護活動が困難になることがあります。
これらの問題点を解決するためには、政府、民間団体、地域社会が連携して取り組む必要があり、動物福祉に対する意識をさらに高めていくことが求められます。
イギリスにおける犬猫の保護活動の未来
イギリスにおける犬猫の保護活動の未来は、いくつかの重要な要因によって左右されると考えられます。以下は、今後の保護活動の展望と課題についての予測です。
ITの活用
デジタル技術の進展により、保護活動がさらに効率化される可能性があります。例えば、オンラインプラットフォームを通じて動物の里親募集を広めることや、保護施設の運営においてデータ分析を活用することで、動物のケアや資金調達がより効果的に行えるようになるでしょう。
法律と規制の強化
動物福祉に関する法律や規制のさらなる強化が期待されます。これには、違法な繁殖業者の取り締まりや、動物虐待に対する罰則の厳格化が含まれます。また、動物の輸送や販売に関する国際的な規制も強化される可能性があり、動物の保護がより厳格に管理されるようになるでしょう。
教育と意識向上の取り組み
今後、学校教育や公共キャンペーンを通じて、動物福祉に関する意識がさらに高まることが期待されます。特に、若い世代への教育が重視され、動物の適切なケアや責任ある飼い主としての役割についての理解が深まることで、動物虐待やネグレクトの減少が見込まれます。
コミュニティの役割の拡大
地域コミュニティの役割が拡大し、保護活動への参加が促進されるでしょう。ボランティア活動や地域密着型の保護プログラムが増加することで、地方でもより多くの動物が保護され、里親を見つける機会が増えると考えられます。
繁殖管理とTNRプログラムの拡充
TNRプログラムの拡充や、ペットの繁殖管理が進むことで、望まれない子犬や子猫の出生が減少し、保護施設への負担が軽減されることが期待されます。また、法律に基づいた不妊手術の義務化などが進むことで、野良猫の問題がより効果的に解決される可能性があります。
※TNR : 野良猫を捕獲=Trapし、不妊・去勢手術を実施し=Neuter、その後自然に返す=Retrunの頭文字
グローバルな連携
イギリスは国際的な動物保護団体や他国の保護活動と連携を強化し、グローバルな視点から動物福祉に取り組むことが予想されます。これにより、動物の違法取引の防止や、輸送中の動物の保護が強化されるでしょう。
持続可能な資金調達の確立
持続可能な資金調達の方法が確立されることで、保護団体や施設が安定した運営を続けられるようになると期待されます。クラウドファンディングや企業とのパートナーシップ、政府からの支援拡充など、多様な資金源が模索されるでしょう。
精神的ケアの重要性
動物の精神的なケアにもさらに注目が集まり、保護施設におけるストレス管理や、里親先での適応支援が進むと考えられます。これにより、動物の生活の質が向上し、里親との関係がより良好になることが期待されます。
まとめ
イギリスにおける犬猫の保護活動は、デジタル技術や法律の強化、教育の充実など、さまざまな要因によって未来に向けて進化していくでしょう。これらの取り組みが成功すれば、動物の福祉が向上し、捨てられる犬猫の数が減少する可能性が高まります。しかし、これらの進展には社会全体の協力と支援が不可欠であり、持続可能な保護活動の実現に向けての努力が続けられることが求められます。