日本のブリーダーと海外のブリーダーの違い

以前のブログでもお話をしたとおり、日本におけるブリーダーという仕事には海外のような法的な資格という制度は存在しません。 日本においては、ブリーダー資格に変わる法的な規制として、ペットの販売を行う際に必要な「動物取扱業」としての登録ががあるだけです。海外の場合、ブリーダーとして開業するにはかなり厳しい資格が必要で行政許可が下りない限り開業ができないことになっています。 また、違法な開業を行った場合、法的処罰で禁固刑などに課せられることもあります。 しかし、日本では違法行為があったとしても罰金を支払う程度の処罰しか法的に設けられていないことなど、資格に関する概念が海外と大きく違います。

そこで今回は、日本のブリーダーと海外のブリーダーの違いについて、法律や環境、そして国民の文化的価値観の違いについて検証したいと思います。

※ここで言う海外とは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、カナダ、オーストラリアなど欧米の国になります。

目次

日本と海外のブリーダーに関するさまざまな違い

日本のブリーダーと海外のブリーダーの間には、大きくいくつかの違いがあります。これらの違いは、法規制や文化・倫理の違い、繁殖の目的、消費者の意識などのさまざまな要因があげられます。

国による法規制と監視

日本

日本では、ブリーダーとして事業を行う場合、資格要件はなく動物取扱業として登録が必要なだけです。2020年の動物愛護法改正により、ブリーダーに対する規制が強化されているものの、国や地方自治体による監視体制が不十分で、違法な繁殖活動や劣悪な環境での繁殖が見逃されるケースも多々起こっているのが現状です。

海外

ヨーロッパや北米などの海外においては、ブリーダーに対する法規制が非常に厳しく、動物福祉基準が厳格に適用されています。例えば、イギリスではブリーダーは定期的な検査と監査を受ける義務があります。検査に違反した場合には厳しい罰則が科されます。また、犬の福祉を保つための団体が多く存在し、ブリーダーの活動を監視しています。

倫理的な基準と繁殖の目的

日本

日本では、一部のブリーダーが商業的利益を優先し、劣悪な環境で大量の子犬を繁殖させる「パピーミル」の問題が依然として存在します。一方で、犬種の保護や改良を目的とし、犬の健康管理や遺伝子検査を徹底する善良で倫理的なブリーダーも増えてきているのも事実です。

海外

多くの欧米諸国では、ブリーダーの倫理基準が高く設定されています。例えば、イギリスやスウェーデンでは、繁殖は犬種の保護と改良を主目的として行われ、遺伝的多様性の確保や健康面での配慮が徹底されています。これに加えて、ブリーダーは動物福祉団体と密接に連携し、繁殖活動の透明性を確保しています。

繁殖を行う環境と出産後のケア

日本

日本のブリーダーの中には、家庭内での小規模な繁殖を行い、犬に十分なケアを提供するケースもありますが、大規模な商業ブリーダーは施設の管理が行き届かず、犬にとって劣悪な環境になることがあります。過密飼育や不十分な社会化、適切な医療ケアが欠如している場合も見られます。

海外

多くの欧米諸国では、ブリーダーが飼育環境の品質を保つことが求められています。犬がストレスの少ない環境で生活し、健康管理が徹底されるよう、ブリーダーは厳格なガイドラインに従っています。子犬は十分な社会化を受け、新しい家庭に迎えられる前に基本的なトレーニングを受けることが一般的です。

消費者の動物福祉に対する意識

日本

日本の消費者の中には、安価で手軽に購入できる子犬を求める傾向があり、その結果、劣悪なブリーダーからの購入が助長されることがあります。最近では、動物福祉に関心を持つ消費者も増えてきていますが、まだ全体的な認識は低いのも現実です。

海外

欧米の多くの国々では、消費者の動物福祉に対する意識が高く、信頼できる倫理的なブリーダーから購入することが一般的です。消費者は、犬の血統、健康、繁殖環境に関する詳細な情報を求め、これらの要素が購入の決定に大きな影響を与えます。また、保護犬やシェルターからの譲渡を選ぶ人も多く、商業的なブリーダーよりも動物福祉団体からの譲渡が普及しています。

ブリーダー団体とブリーダーの教育

日本

日本には、いくつかのブリーダー団体が存在しますが、統一されたガイドラインや教育プログラムが不足していることがあります。そのため、ブリーダーによって繁殖の質が大きく異なることがあるのも事実です。

海外

欧米諸国では、ブリーダー団体が厳格なガイドラインを消費者に提供し、ブリーダーが定期的に教育課程やセミナーに参加することが奨励されています。これにより、繁殖の質が一定以上に保たれているのです。

ブリーダーが最も進んでいる国

ブリーダーが最も進んでいる国としてよく挙げられるのは、スウェーデンです。スウェーデンでは、動物福祉やブリーダーに対する規制が非常に厳しく、倫理的で高い基準が設けられています。以下に、スウェーデンがブリーダーの分野で進んでいる理由を説明します。

厳格な動物福祉法の存在

Animal Welfare Act(AWA)スウェーデンの動物福祉法は、動物が適切にケアされ、健康で快適な生活を送るための詳細な規定を設けています。ブリーダーに対しても、飼育環境、健康管理、社会化のための措置など、非常に高い基準が求められています。

国家主導のブリーディング基準

国家による規制: スウェーデンでは、ブリーダーが繁殖を行う際には、国家の定めた厳格な基準を遵守する必要があります。これには、動物の健康診断、遺伝性疾患のスクリーニング、適切な交配の計画などが含まれます。
繁殖許可制度: スウェーデンでは、すべてのブリーダーが繁殖許可を取得する必要があり、この許可は厳格な基準に基づいて発行されます。許可がない場合、繁殖活動は違法とみなされます。

動物福祉団体とブリーダー協会の役割

スウェーデンのケネルクラブ(SKK)は、ブリーダーに対する認証や教育を行い、高い倫理基準の維持に努めています。SKKに認証されたブリーダーは、動物福祉や健康に関して非常に高い意識を持っていると見なされます。また、動物福祉団体がブリーダーの活動を監視し、違反があればすぐに摘発し、必要に応じて法的措置を取ることも一般的です。

消費者の高い動物愛護への意識

スウェーデンの消費者は、ペットを迎える際に倫理的な選択をする傾向が強く、信頼できるブリーダーや保護団体から動物を迎えることを重視します。これにより、悪質なブリーダーが市場に参入することが難しくなっています。

ブリーダー教育と啓発活動

スウェーデンでは、ブリーダーに対する教育プログラムが充実しており、動物の遺伝、行動、生理学に関する専門知識を持つことが求められます。これにより、責任ある繁殖活動が確立されています。また、一般消費者に対しても、動物福祉に関する啓発活動が行われており、ペット購入に際しての責任と選択肢について深く理解されています。

スウェーデンは、ブリーダーに対する厳格な規制と動物福祉法、高い消費者意識、そして強力な動物福祉団体の支援により、世界で最も進んだブリーダー制度を持つ国とされています。スウェーデンのモデルは、他国の動物福祉政策の手本としてしばしば参照されます。

まとめ

日本と海外のブリーダーには、法規制、倫理基準、繁殖環境、消費者意識などにおいて明確な違いがあります。特に、海外の多くの国々では、動物福祉に対する取り組みが進んでおり、ブリーダーもその一環として高い倫理基準を持って活動しています。日本でも、動物福祉への関心が高まる中で、ブリーダーの質の向上や消費者の意識改革が求められています。

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