ミネラルは健康な骨や歯を維持するため、また、身体の機能を正常に保つために大切な栄養素の1つです。しかし、犬はミネラルを体内で作ることができないため、ミネラルは食事から摂取しなければいけない重要な栄養素です。不足すれば体に不調が起き、反対に過多になっても中毒症状を引き起こしてしまいます。
ミネラルは、炭素・水素・窒素・酸素を除いた元素の総称のことで、「灰分」(かいぶん)と呼ばれることもあります。タンパク質や炭水化物、脂質と違ってビタミン同様にエネルギー源にはなりませんが、身体を維持するためには欠かせない栄養素になります。
今回は、五大栄養素の1つである「ミネラル」について、犬の観点から見ていきたいと思います。
多量ミネラルと微量ミネラル
ミネラルは以下のように必要量によって「多量ミネラル」と「微量ミネラル」の2つに分類することができます。
多量ミネラル | カルシウム、リン、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、塩素、硫黄 |
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微量ミネラル | 鉄、亜鉛、銅、ヨウ素、セレン、マンガン、コバルト、モリブデン、フッ素、ホウ素、クロム |
1.多量ミネラル(マクロミネラル)
多量ミネラルは、身体に比較的大量に必要なミネラルです。これらのミネラルは、グラム単位で摂取されることが一般的であり、身体の機能や構造に重要な役割を果たします。例えば、カルシウム、リン、マグネシウム、ナトリウム、カリウムが多量ミネラルの代表的な例です。これらのミネラルは、骨や歯の形成、神経機能、筋肉収縮、液体バランスの維持などに必要です。
2.微量ミネラル(ミクロミネラル、トレースミネラル)
微量ミネラルは、身体に必要な量がごくわずかなミネラルです。通常はミリグラムやマイクログラム単位で摂取されます。これらのミネラルは、体内で重要な役割を果たしますが、必要量が少ないために微量ミネラルと呼ばれます。例えば、亜鉛、鉄、銅、セレンが微量ミネラルの代表的な例です。これらのミネラルは、代謝反応の触媒や酵素の構成要素として重要であり、免疫機能や抗酸化作用、ホルモンの正常な機能に関与します。
これらのミネラルは、バランスの取れた食事から摂取されるべきであり、不足すると健康上の問題が発生する可能性があります。
多量ミネラルと微量ミネラルの比較
項目 | 多量ミネラル | 微量ミネラル |
体内含有量 | 体重の約4~5% | 体重の約0.1%未満 |
代表的なミネラル | カルシウム、リン、マグネシウム、 ナトリウム、カリウム | 鉄、亜鉛、銅、ヨウ素、マンガン、 セレン |
主な役割 | 骨や歯の形成、筋肉や神経の働き、 体液のバランス調整など | 酵素の構成成分、ホルモンの産生、 免疫機能の強化など |
不足した場合の影響 | 骨粗鬆症、低カルシウム血症、筋肉 のけいれん、神経症状、脱水症状、 むくみ、高血圧、低血圧など | 貧血、味覚障害、傷の治癒遅延、 免疫力低下、甲状腺機能障害、 骨粗鬆症など |
過剰摂取した場合の影響 | 高カルシウム血症、腎臓結石、下痢、 脱水症状、不整脈など | 鉄過剰症、肝障害、銅中毒、 ヨウ素中毒など |
犬にミネラルが必要な理由
犬にとってミネラルは必要な栄養素の1つです。冒頭にもお伝えいたしましたように、ミネラルは健康な骨や歯を維持するために重要で、かつ、身体の機能を正常に保つのにも欠かせないものです。犬に必要な主なミネラルには、カルシウム、リン、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどがあります。これらのミネラルはバランスの取れた食事から摂取することがとても大事です。通常は市販のドッグフードや栄養補助食品にこれらのミネラルが含まれていますが、場合によっては獣医師の指示に従ってサプリメントを追加する必要があるかもしれません。
犬にミネラルが必要な理由はいくつかあります。
1.骨と歯の健康維持
ミネラルは骨や歯の構造に必要不可欠です。特にカルシウムとリンは、骨や歯の形成や強化に重要役割を果たします。不十分なミネラル摂取は、骨の弱さや歯の問題を引き起こす可能性があります。
2.身体機能の調整
ミネラルは、身体内の多くのプロセスに関与します。例えば、マグネシウムは神経機能や筋肉の収縮に必要であり、ナトリウムとカリウムは細胞の水分バランスや神経伝達に関与します。
3.代謝の支援
ミネラルは代謝にも関与し、エネルギー生成や栄養素の吸収に必要です。特に微量ミネラル(亜鉛、鉄、セレンなど)は、代謝反応の触媒として重要な役割を果たします。
犬の健康状態を維持するためには、バランスの取れた栄養摂取が重要です。適切なミネラル摂取は、健康的な成長や発達、そして犬の全体的な健康に不可欠です。
犬に必要なミネラルは自然食材から摂取が難しいですか?
犬に必要なミネラルは、自然食材から摂取することが一般的には可能ですが、バランスの取れた食事を与える場合、問題になることがあります。自然食材に含まれるミネラル量や種類はさまざまで、それぞれの食材によって偏ったミネラルを多く含むケースがあります。
例えば、肉や魚、卵などの動物性タンパク質には、ミネラルの豊富な供給源となります。一方、野菜や果物はカリウムやマグネシウムなどのミネラルを含んでいます。しかし、犬にとって最適なミネラルをバランスよく与えるには、さまざまな食材を組み合わせる必要があります。
また、自然食材だけでは微量ミネラルを充分に摂取するのが難しい場合があります。特に亜鉛やセレンなどの微量ミネラルは、土壌の状態や植物の栄養状態によって含有量が異なります。そのため、市販のドッグフードや栄養補助食品を使用して微量ミネラルを補給することが重要になってきます。
つまり、自然食材から摂取することが難しいというよりも、適切なバランスを保つためには栄養管理が必要になってきます。獣医師や栄養士の助言を受けながら、犬に必要なミネラルを適切に摂取できるように心がけましょう。
以下は、FEDIAF(欧州ペットフード工業会連合)が発表しているドッグフードに含まれているミネラルの100g中の量のガイドラインになります。
(乾物 100 g中) | 単位最小量 | 最大量 | ||
繁殖期 | 成長・維持期 | |||
カルシウム | g | 1.1 | 0.7 | 2.9 |
リン | g | 0.9 | 0.6 | 1.8 |
カリウム | g | 0.7 | 0.7 | |
ナトリウム | g | 0.3 | 0.07 | |
塩素 | g | 0.51 | 0.1 | |
マグネシウム | g | 0.05 | 0.05 | 0.3 |
鉄 | mg | 9.1 | 9.1 | 343 |
銅 | mg | 0.83 | 0.83 | 26 |
マンガン | mg | 0.6 | 0.6 | |
亜鉛 | mg | 13.7 | 13.7 | 114 |
ヨウ素 | μg | 171 | 171 | 5,714 |
セレン | μg | 12.6 | 12.6 | 229 |
犬に必要なミネラルの働き
犬に必要なミネラルは、さまざまな健康的な機能をサポートする役割があります。主なミネラルとその働きについて説明します。
1.カルシウム
骨や歯の形成と維持に不可欠であり、神経伝達や筋肉収縮にも関与します。また、血液凝固やホルモンの分泌にも必要です。
2.リン
カルシウムと共に骨や歯の構造を形成し、エネルギー代謝に重要な役割を果たします。また、DNAやRNAの合成にも必要です。
3.マグネシウム
筋肉の収縮とリラックスを調節し、神経伝達をサポートします。また、骨の健康維持やエネルギー代謝にも関与します。
4.ナトリウムとカリウム
電解質として、神経伝達や筋肉の収縮を制御し、細胞内外の水分バランスを維持します。
5.亜鉛
免疫機能のサポートや細胞分裂、タンパク質合成に必要です。また、皮膚や被毛の健康維持にも重要です。
6.鉄
ヘモグロビンやミオグロビンの構成要素であり、酸素の運搬や細胞の呼吸に不可欠です。
7.銅
ヘモグロビンやコラーゲンの生成に必要であり、酸化還元反応の酵素の活性化にも関与します。
8.セレン
抗酸化作用があり、免疫機能のサポートや甲状腺ホルモンの代謝に関与します。
これらのミネラルは、犬の健康を維持するためにバランスの取れた食事から摂取される必要があります。不足すると骨や歯の健康、免疫機能、神経機能などに問題が生じる可能性があります。
以下は、犬に必要なミネラルの働きと摂取量になります。
ミネラル | 働き | 子犬期 | 成犬期 |
カルシウム | 骨の形成、筋肉の弛緩・収縮、神経の伝達などにかかわる | 1.2〜2.5% | 0.5〜2.5% |
リン | 骨格の強化、DNA・RNAおよび細胞膜の構成などにかかわる | 1.0〜1.6% | 0.4〜1.6% |
カリウム | 体液のph調節(塩分の排出)、筋肉の収縮、血圧や心臓機能の調節などにかかわる | 0.6%〜 | 0.6%〜 |
ナトリウム | 体内の浸透圧や水分、pHなどのバランス調節にかかわる | 0.3%〜 | 0.08%〜 |
クロール | 細胞外液の主な構成要素となり、水分量やpHなどの調節にかかわる | 0.45%〜 | 0.12%〜 |
マグネシウム | 心臓機能の維持、骨の形成をはじめ、体内における代謝機能全般にかかわる | 0.06%〜 | 0.06%〜 |
鉄 | ヘモグロビンやミオグロビンによる酸素の運搬、細胞呼吸のサポート(補酵素機能)などにかかわる | 88mg/kg〜 | 40mg/kg〜 |
亜鉛 | さまざまな代謝や酵素機能、ビタミンAの運搬などにかかわる | 100mg/kg〜 | 80mg/kg〜 |
銅 | 被毛の色を作るメラニンの合成をはじめ、さまざまな補酵素機能にかかわる | 12.4mg/kg〜 | 7.3mg/kg〜 |
マンガン | さまざまな酵素をサポートし、細胞におけるミトコンドリアの機能、神経機能、関節軟骨の形成などにかかわる | 7.2mg/kg〜 | 5mg/kg〜 |
ヨウ素 | 甲状腺ホルモンの合成や細胞機能、エネルギー代謝などにかかわる | 1.0〜11mg/kg | 1.0〜11mg/kg |
セレン | ビタミンEと協調した抗酸化作用、免疫反応のサポートなどにかかわる | 0.35〜2mg/kg | 0.35〜2mg/kg |
犬にとって注意すべきミネラルの欠乏症・過剰症
犬はミネラルが不足すると、食欲不振や貧血、脱水、脱毛など、さまざまな欠乏症になる恐れがあります。また、逆に多く摂りすぎるとほかの栄養の吸収を阻害してしまうミネラルもあるため、過剰摂取にも注意が必要です。
以下は、犬がミネラルの欠乏・過剰によって陥る可能性のある症状になります。
ミネラル | 欠乏症 | 過剰症 |
カルシウム | 骨粗鬆症、低カルシウム血症 | 骨や関節の異常、甲状腺機能の低下 |
リン | 骨の異常、食欲不振、疲れ、発育不全、毛並みの悪化、異食症ほか | カルシウムの吸収阻害による骨や歯の劣化、尿石をはじめとする腎臓の疾患ほか |
カリウム | 食欲不振、筋力低下、血圧上昇、麻痺ほか | 心臓や副腎の機能不全 |
ナトリウム | 下痢や嘔吐、脱水ほか | 高血圧およびそれに伴う各種の疾患 |
クロール | 筋力低下、痙れん、不整脈、てんかんほか | 下痢、排泄不全ほか |
マグネシウム | 食欲不振、不整脈、筋収縮の異常、運動機能の低下、痙れんほか | 皮膚の異常や神経障害、下痢、嘔吐、尿結石、痙れんほか |
鉄 | 貧血、疲れ、食欲低下、発育不全ほか | 嘔吐、吸収障害ほか |
亜鉛 | 食欲不全、皮膚の疾患、脱毛ほか | 下痢、嘔吐、貧血ほか |
銅 | 疲れ、貧血、骨の異常ほか | 嘔吐をはじめとする中毒症状 |
マンガン | 骨の劣化、発育・生殖機能の不全ほか | 神経障害、鉄の欠乏ほか |
ヨウ素 | 甲状腺機能の不全、骨の異常、脱毛、疲れほか | 甲状腺機能の不全 |
セレン | 老化、脱毛、生殖機能の低下 | 脱毛、爪の割れ、下痢、嘔吐ほか |
犬に必要なミネラルを多く含む食べ物
犬に必要なミネラルは、多量ミネラルと微量ミネラルに分類されます。 それぞれのミネラルは、体内で重要な役割を果たしており、不足や過剰摂取を避けるために、バランス良く摂取することが大切です。
【多量ミネラル】
1.カルシウム
小松菜、ほうれん草、モロヘイヤ、うなぎ、大豆、牛乳、チーズ、ヨーグルト、小魚など
2.リン
ホタテ貝柱、タラ、アジ、サケなどの魚介類、大豆、卵黄、肉類、乳製品、海苔など
3.カリウム
昆布、海苔、大豆、ほうれん草、ブロッコリー、バナナ、タラ、マグロ、鶏肉など
4.ナトリウム
ホタテ、カニ、イカ、甘えびなどの魚介類、わかめ、あおさ、海苔などの海藻類、チーズ、加工肉など
あおさ、ひじきなどの海藻類、ゴマ、そば、納豆、ナッツ類、豆類、緑黄色野菜など
【微量ミネラル】
6.鉄
レバー、カツオ、ゴマ、小松菜、ほうれん草、豆乳、赤身の肉、魚介類、豆類、緑黄色野菜など
7.亜鉛
牡蠣、牛肉、ゴマ、大豆、海苔、カニ、鶏卵、レバー、ナッツ類、豆類など
8.銅
牛レバー、ゴマ、大豆、そば、枝豆、貝類、ナッツ類、豆類、キノコ類など
9.ヨウ素
昆布、ひじき、あおさ、海苔、わかめなどの海藻類、タラ、サバ、マグロ、アジなどの魚介類、卵など
10.マンガン
あおさ、海苔、大豆、ゴマ、そば、パイナップル、柿、しそ、バジル、モロヘイヤ、枝豆、玄米など
11.セレン
マグロ、カツオ、アジ、サバなどの魚介類、豚レバー、パスタ、鶏卵、ナッツ類、キノコ類など
犬にミネラルを与える際の注意点
犬にミネラルを与える際には、以下の注意点を考慮することが大切です。
1.適切な量
犬に与えるミネラルの量は適切である必要があります。摂取量が不足すると栄養不良が生じ、逆に過剰摂取は中毒や健康問題を引き起こす可能性があります。獣医師や犬の管理栄養士などに相談し、その指示に従い、犬の種類や年齢、体重などに応じて適切な摂取量を確認しましょう。
2.バランスの取れた食事
ミネラルは他の栄養素、特にビタミンと相互作用しますので、食材のバランスが重要になります。たとえば、カルシウムとリンのバランスが崩れると骨や歯の健康に影響を与える可能性があります。バランスの取れた食事を与えるためには、獣医師や犬の管理栄養士などのアドバイスも聞くことが重要です。
3.ミネラル補助食品の使用
犬用のミネラル補助食品を使用する場合は、適切な製品を選択しましょう。信頼できるメーカーからの製品で、安全性と品質が確保されたものを選ぶことが重要です。
4.過剰摂取のリスク
特定のミネラルを過剰に摂取すると、犬の健康に悪影響を与える可能性があります。例えば、ナトリウム過剰は高血圧や水中毒を引き起こし、亜鉛過剰は消化器症状や銅吸収不良を引き起こす可能性があります。
5.個々の犬のニーズを考慮する
犬の年齢や大きさ、健康状態などによってミネラルの配分に違いがあります。個々の犬の状況に応じた適切な食事内容を考えることが重要です。
以上の注意点を考慮しながら、犬に必要なミネラルを適切に与えることで、健康的な生活をサポートすることができます。
まとめ
五代栄養素の1つであるミネラルは、犬にとっても欠かせない栄養素です。各種のミネラルは互いに作用し、ビタミンと相互関係にあるミネラルも存在します。特定のミネラルを過剰に摂ると他のミネラルやビタミンがその作用によって不足することもありますので、食材のバランスには注意が必要です。
特にサプリメントによるミネラル補給はバランスが崩れる原因にもなります。また、食材では摂ることが難しいミネラルもありますので、手作りドッグフードを作る際は特に注意が必要になります。愛犬のごはんには、栄養素が過不足なく配合された総合栄養食のドッグフードをお勧めします。